東京の都心に位置する「3A+R」エリア、つまり麻布・赤坂・青山に六本木を加えた地域は、長年にわたり日本最高峰のマンション立地として高く評価されてきました。外資系企業や各国大使館、高級ホテルが集まるこのエリアは、まさに「グローバル都市・東京」を象徴する居住ゾーンと言えるでしょう。日本人富裕層だけでなく、海外の投資家やエグゼクティブからも強い需要があり、その人気は常に供給を上回ってきました。
こうした背景から、3A+Rエリアのマンション価格は安定して上昇傾向にありました。2023年中盤までは、麻布、赤坂、青山、六本木は概ね同じ水準で推移し、「都心最高水準」として一括りに見られていました。しかし、2023年後半以降、その構図に大きな変化が起きています。特に六本木の坪単価が急激に上昇し、他のエリアを明確に上回る動きを見せているのです。
通常、このような価格差は大規模な再開発や利便性の向上といった明確な理由によって生まれますが、六本木では同時期に大きな開発は行われていません。むしろ、麻布では麻布台ヒルズが完成し、都市機能が大きく向上しています。にもかかわらず六本木が突出している点は、市場の構造を読み解く上で非常に興味深いと言えます。

データが語る「価格上昇の真実」
3A+Rエリアにおけるマンションの坪単価を、住戸の面積帯別に見てみると、ある傾向がはっきりと見えてきます。それは、住戸面積が広くなるほど坪単価が大きく上昇していることです。特に80㎡以上の広々とした面積帯ではその上昇幅が顕著で、2020年には坪600万円前後だった水準が、現在では坪1400万円前後にまで上昇しており、なんと2倍以上という驚異的な伸びを示しています。
この現象は、単に地価やブランド力が高まった結果だけではありません。富裕層の住宅ニーズの変化が強く影響していると考えられます。近年では、「立地が良いこと」はもちろんのこと、「広さ」「築浅であること」「素晴らしい眺望」といった複合的な価値が非常に重視されています。駅からの距離以上に、プライバシー性の高い広さや充実した共用施設、建物のブランド性、そして高層階からの眺望などが、価格形成に大きく寄与するようになっているのです。
その結果、平均値や中央値だけを見るとエリア全体が均等に価格上昇しているように見えますが、実際には価格上昇の中心は、限られた広面積帯の高グレード物件に集中していることがわかります。80㎡以上の住戸は供給が極めて少ない一方で、強い需要があるため、価格が上昇しやすい構造にあると言えるでしょう。この傾向は3A+Rエリア全体に共通しています。

なぜ六本木だけが突出して高騰したのか?
3A+Rエリアの中でも、2006年築以降かつ80㎡以上という条件を満たす住戸の成約割合を見ると、六本木のみが2024年中盤以降に急激な上昇を見せています。この時期は、六本木の坪単価が他エリアと比較して大きく高騰したタイミングとぴったり一致しており、両者には強い相関関係があると考えられます。
つまり、六本木の価格高騰は「エリア全体の地価が一様に上がった結果」というよりも、「築浅かつ広面積帯という、もともと高価格帯の物件の取引が、他エリアと比べて著しく多かった結果」と見るのが妥当でしょう。築浅マンションは、設備水準や耐震性能、共用施設の充実度などが評価され、同じ立地・広さであっても築古物件より高い坪単価で取引される傾向にあります。そこに80㎡以上という希少性が加わることで、1件あたりの価格インパクトが大きくなり、見かけ上の市場全体の平均値を押し上げる要因となっているのです。

それでは、なぜ六本木だったのでしょうか?
六本木は、東京の中でも数少ない「世界的に名前が通る街」です。外資系企業の拠点、国際色豊かな商業施設、高級ホテル、ナイトライフ、アート施設が集積し、外国人にとって東京を象徴する都心エリアとして広く認知されています。そのため、日本の地理や不動産市場に詳しくない外国人投資家であっても、「六本木」という地名だけで立地価値やステータス性を直感的に理解しやすく、投資判断を下しやすいという特徴があります。
このような認知のしやすさは、投資マネー、特に短期的な値上がり益を狙う投機資金にとって非常に重要な要素です。再販時にも「説明しやすく、買い手が付きやすい」立地であることが、流動性と出口戦略の明確さを担保するからです。六本木は、麻布・赤坂・青山といった他の高級住宅地と比べても、国際市場におけるブランドの通りやすさという点で一歩抜きん出ていると言えます。
その結果、六本木では「築浅×大型住戸」という高額帯の商品に対して、実際に住むための居住目的に加え、値上がり期待を前提とした投資・投機マネーが重なりやすい構造が形成されました。特に円安局面では、日本の都心不動産は外貨ベースで割安感が強まり、六本木のような国際的に認知度の高いエリアには資金が流入しやすくなっています。このように、六本木における2006年築以降かつ80㎡以上の取引増加は、「土地柄×国際認知度×流動性」という三つの要素が重なった結果、外国人による投機・投資の対象となりやすい環境が整ったことによる影響が大きいと考えられます。そしてその集中が、見かけ上の坪単価を他エリアと比較して大きく押し上げる構造を生み出しているのです。
表面的な価格では測れない、本当のエリア評価とは?
これまでの分析から、現在の3A+Rエリア、特に六本木の価格動向は、必ずしも「住む価値」や「エリアとしての成熟度」そのものの上昇を直接反映しているわけではないことが分かります。むしろ、築浅かつ大型住戸という特定のセグメントに取引が集中した結果として、表面的な数値が歪められている可能性が高いと言えるでしょう。加えて、現在の都心マンション市場には投機的な取引や短期売買が一定数含まれており、実際に住むことを目的とした価格形成とは異なる力が働いている点にも注意が必要です。
本来、エリアの評価は単なる価格水準の高低だけで測られるべきものではありません。交通の利便性、生活のしやすさ、教育・医療・文化インフラの充実度、治安や街の落ち着き、将来的な都市計画や再開発の余地、そして住民コミュニティの質やエリアブランドの持続性といった、たくさんの要素を総合的に考慮して判断されるべきです。そうした観点から見ると、麻布台ヒルズの完成によって都市機能が向上した麻布、長年にわたり高級住宅地としての品格を保ち続けてきた青山・赤坂の評価が、六本木に劣るとは必ずしも言い切れないでしょう。
短期的な価格指標に一喜一憂するのではなく、「どのエリアが中長期的に見て、住む価値と資産価値の両方を実現しやすいのか」という視点こそが、これからのマンション選びにおいて非常に重要になります。特定のエリアや物件タイプに取引が集中する局面では、市場データの読み解きには一層の慎重さが求められます。表面的な数値だけに基づいてエリア評価を下すのではなく、その背後にある取引構造や需要層の変化を丁寧に読み解くことこそが、本当に価値ある不動産判断につながるはずです。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社 データ事業開発室 不動産データ分析責任者
福嶋総研 代表研究員
早稲田大学理工学部を卒業後、大手不動産会社でマーケティング調査を担当。その後、建築設計事務所で法務・労務に携わります。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査や評価指標の研究・開発を行う傍ら、顧客企業の不動産事業における意思決定などをサポートしています。また、大手メディアや学術機関へもデータおよび分析結果を提供しています。
関連情報
-
福嶋総研 公式ページ: https://mansionresearch.co.jp/fri/
-
メルマガ配信申込フォーム: https://forms.gle/bQizYbozk35QoMJ67
-
マンションリサーチ株式会社その他サービスURL
-
全国14万棟 分譲マンション価格相場公開サイト『マンションナビ』: https://t23m-navi.jp/
-
不動産データクラウド: https://fudosan-data.jp/
-
ロボ査定: https://robosatei.jp/
-
分譲マンション、土地、戸建てデータ販売: https://mansionresearch.co.jp/re-data/
-
-
不動産市場解説動画チャンネル: https://www.youtube.com/@mansionresearch/videos
